感染症データ解析
【パンデミックシミュレーション】
現在、新型コロナウイルスが猛威を振るい、我々の生活様式を変化させるまでの影響が出ている。また、2009年のH1N1新型インフルエンザや2014年のエボラ出血熱なども記憶に新しいでしょう。このような新興感染症に対しては、私たちは防御するための免疫をもっていないため、ウイルスに暴露された際に非常に高い確率で感染してしまう。ウイルスの感染力などの情報から、今後の感染拡大がどの程度広がっていくかを予測する数理モデルは古くから研究されているが、その予測結果を日本のような入り組んだ地形、複雑な交通網などで具体的な対策に繋げるのは難しい。私たちは、東京を模した仮想的な都市をコンピュータ上に構築し、そこに100万を超えるエージェントをパーソナルプロファイル(性別、年齢、職業、家族情報など)を持たせ配置し、電車を走らせ、会社、学校、スーパー、公園、レストランなどを作り1分刻みに1年間のシミュレーションを行い、感染拡大、対策効果を評価するエージェントベースシミュレーションの研究を行っています。
【マスギャザリングイベントのリスクアセスメント】
With-コロナにおいては、人の集まるイベント(マスギャザリングイベント)におけるリスクアセスメントは重要な課題です。例えば、スタジアムにおいて感染者が会場内に入った際、感染拡大が起こるかどうかは、スタジアム内での人々の行動に依存します。私たちは、さまざまな場所での人の行動パターンをモデル化し、それぞれの行動に対して感染リスクを評価し、例えばサーモグラフィーにより感染者を入れない(症状のない患者は入ることになる)、マスクをするなどの個別の対策を行った際に全体として感染拡大のリスクがどの程度に抑えられるかなど、解決志向でのリスクアセスメント研究を実施しています。
【COVID-19による東京2020オリンピック開会式でのリスク評価】
COVID-19パンデミックの影響で、2020年のオリンピック/パラリンピックは2021年に延期されました。私たちは、東京オリンピックの開会式における観客の感染リスクをどのようにして予防的に低減できるかを評価するために、感染源-環境-感染しうる人の経路を統合したシミュレーションモデルを開発しました。話す、咳をする、くしゃみをするなど感染者から放出される重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のウイルス量をシミュレートし、ウイルスの不活性化や移動などの時間的な環境行動をモデル化しました。モンテカルロシミュレーションにより、予防措置を講じた場合と講じなかった場合の新規感染者数の予想を行い、開会式における感染リスクと対策によるリスク低減効果を評価しました。