共生微生物ゲノムデータ解析技術の開発

【腸内細菌叢】私たちの体には、多種多様な微生物が共生しています。特に腸内には1000種類以上の細菌が合計100兆個以上も生息しており、この細菌の総体が細菌叢と呼ばれ、近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)と健康や疾患との関連が大きな関心を集めています。腸内細菌叢の有する遺伝子は、ヒト遺伝子の約 1000 倍、2000 万にものぼります。そのバランスの崩壊が大腸炎などの腸疾患はもとより、神経変性疾患、うつなどの精神疾患まで影響を与えることが近年の研究から分かってきました。この腸内細菌叢由来の DNA配列を網羅的に読み取ったメタゲノムデータを集積し、存在する細菌の種類の変化や増減に伴う細菌叢の構成異常から健康状態や疾患の予知・予防・治療などに繋げることがこれからの10年の重要研究課題です。本研究では、細菌叢の構成異常をパスウェイ単位で検出するアルゴリズムの開発、およびその結果をヒトの健康状態や疾患と紐付けて解釈する人工知能の開発を行っています。​

【腸内ウイルス】ヒト腸管内には、細菌と共に多様なウイルスが存在しており、その多くはコロナウイルスのような私たちの細胞に感染するウイルスではなく、細菌に感染するバクテリオファージです。バクテリオファージは、細菌に感染し自身を増やし、細菌を壊す(溶菌)ことから細菌叢に影響を与えていることは明らかですが、バクテリオファージを網羅的に解析する手法がこれまで未開発でした。私たちは、次世代シークエンサーを用いてバクテリオファージを網羅的に解析するためのプロトコルを植松智教授と共同研究を行い開発することに成功しました。また、そのシークエンスデータを用いてバクテリオファージの組成を解析するための情報解析技術を合わせて開発しています。これらの技術を用いて、ヒト糞便から細菌叢、ウイルス叢を同時に解析することにより、バクテリオファージと細菌との感染関係を明らかにする情報解析技術について開発研究を進めています。

【(社会実装)次世代ファージ療法による多剤耐性菌の制御】自分自身のゲノムを細菌ゲノムに挿入する「溶原ファージ」はファージ療法には使うことが出来ないとされています。赤痢菌の志賀毒素とO157のベロ毒素はファージが媒介して伝播したということもあり、このような危険な遺伝子伝播を起こす可能性があるからです。しかしながら、ゲノム挿入を伴わない感染形態を有する「溶菌ファージ」の感染関係を調べることは大変な困難を伴い、また、CRISPR領域を調べても過去の感染の履歴が分かるのみで既に耐性を獲得している可能性もあります。そこで、ファージ自体は使わず、ファージ由来の抗菌作用のある酵素を用いて標的病原性細菌を溶菌する次世代ファージ療法の開発を進めています。この次世代ファージ療法では、酵素のみを用いるため、従来は利用する事が出来なかった溶原ファージの有する様々な酵素が活用できます。私たちは、偽膜性大腸炎の原因病原菌である C. difficile を溶菌することのできるエンドライシンという酵素をメタゲノムデータから配列を同定しました。更に、同定した配列を元に実際に我々の手でエンドライシンを合成し、マウスによる感染実験まで行いました。マウスは C. difficile に感染して重篤な腸炎を発症しほぼ死亡しますが、感染後に我々のエンドライシンを導入したマウスでは、有効に C. difficile は駆除され、死亡することがほぼありませんでした。

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